美大生の頃から欅の姿が好きだった。まだ昔の武蔵野の面影が残る風景の中に欅の林が連なって扇形になっているのを何度となくスケッチしたものである。灰色の空に赤っぽい濃い紫の幹や枝が交錯している姿を冬の景物詩のように感じたものである。
その美大に堀内規次先生が講師で来られていた。先生の武蔵野の欅の絵は素晴らしかった。ちょうど先生の瓶のシリーズが良く出回っていたのをある画廊で拝見した後,機会があって田無のお宅に伺うようになった。その都度何枚か絵を持参して批評してもらったりしたのだが、その実、もてなしてくださる酒を一人で痛飲していたのである。
ある時、これ今朝スケッチしてきたんだよ、と言って鉛筆で描かれた欅の林を見せてくださった。そのスケッチはいまだに忘れられないほど素晴らしいものだった。鉛筆一本でこんなに豊かな色が出るものか、と感心させられた。