
夕方の赤く染まったような富士の姿を描いてみた。F10号の油彩である。場所は何時も通っている柚野あたりで、家からも近くて制作にも都合がいい。大きな竹林もこの辺りには多く、棚田や富士など題材には事かかない有難い地域だとわかってきた。
南フランスでも家の前にあるヴァントゥー山の夕暮れの色彩に惹かれてよく絵にしたものである。フランス人はいつもあの赤く染まった山肌の色をモーブと言っていた。日本語で言えば赤紫が近いかと思う。富士山の夕暮れはどちらかというとオレンジに近いような気がする、何はともあれ美しい色彩である。
栁田国男の妖怪談義という本に夕方の時間の大切さ、なぜその一集落に他国者を警戒するゆえに夕方の暗くなった時間に「タソガレ」つまり誰ぞかれ、と問いかけて自分たちの集落の安全を図っていく、そういった語源を説明してくれている。そのおぼろげな、薄赤いような夕暮れの富士の姿も何か郷愁を感じさせられて好きである。