
サムホールの大きさ(22,7×15,8)に三つの西洋梨をモチーフにして水彩を描いてみた。これは実は以前描いたことのある水彩画をもとにして、もう一度同じ大きさ、同じテーマで描き改めたものである。元の作品になっている梨の個々が少し大きすぎて画面が窮屈な感じになっていたのが気になって仕方がなかったのである。
フランスから本帰国し、また山梨から静岡に変わってそのたびにアトリエの片付けなどをしていると、思いもかけずに旧作を見つけたりもする.そして懐古にふけったりもする。時にはその作品の中身を考え直したりもしている。これはもっと追求出来たろうにと思いなおす場合も出てくる。そのような中でこの一枚を描きなおしてみたのである。
川端康成の「十六歳の日記」という作品は自分の中学時代(旧制)の古い日記を偶然見つけ、その内容に眼を見張って作品として世に出したものである。その旧制の茨木中学、現在の茨木高校は私の母校でもある、だからこの作品に出てくる内容や地名などはかなり親しいもので、特に私はこの作品が好きである。また川端康成その人がこの古い日記を見つけたのは大きな意味があると思っている。自分の作品のもとになっている資質をこの日記の中に見出しているのではないかと思うのである。セザンヌがさかんにタンペラマンと言っているのはこの資質のことだと思っている。