30年以上のフランスでの生活に終止符を打って日本に戻ることを決めた時にまず考えたのは制作の主題を富士山に見据えることだった。なんといっても若いころに描いた富士の山の容姿が忘れられず、またフランスで体験したヴァントゥー山やサン・ヴィクトワール山からの延長としての山岳制作の面白さを日本でも味わいたかったのである。
それを踏まえて現在の地に住み始めたのだが、思っていた以上に自然の恵みの多い場所だった。とにかく森に囲まれていて、そこに発見したのは赤松と溶岩樹型の多様さだった。どちらも自分の制作の体質に合っているのがすぐにわかった。
富士や溶岩樹型の制作の方が今のところ先行しているが、何とか赤松も自分のものにしてみたいと色々試みているところで、今回はF20号に赤松の直立している林を描いてみた。その姿も美しいが、樹間としての全体感も今後の課題になっていくのではないかと思っている。