
マザンの風景といえば誰もがここだ、といえるような場所、我が家からもほんの少しの距離である。もう何度も描きなれている風景ではあるが、やはり春が過ぎて空の色がどんどん青く、明るくなってくると、また描いてみようという気持ちになる。
しかし徐々に変わりつつある景色でもある。何か色も全体的にきれいになって、それはそれで結構なことなのだが、なんだか風景が軽くなったような印象を受ける。素朴な美しさも残しておきたいような気がするが、これも時代なのだろうか。
今回はP3号のキャンバスに描いてみた。P3号というのは初めてで、F3号よりもこころもち細長い形である。この風景は写真家などもよく選んでいる場所で、日曜画家のフランス人グループもここで描いていたのを見たことがあるが、私には案外難しい制作だといつも思うのである。というのも奥行きがつけにくい構図になってくるからで、息抜きになるような部分がなかなか見つけられない、だからマザンの村の裏からヴァントゥー山までの距離感が出しずらいのである。
セザンヌはこういう風景の時にでも距離感を充分に表現する術を知っている画家である。いわゆるセザンヌの絵の垂直性といわれるもので、その垂直感で奥行きに引き込んでいくのだと解説されている、しかし私にはその垂直感というのと奥行きというのがどう関係するのかよく理解できないのである。垂直感というよりももっと、縦に切り込んでいく心理、縦の空間処理、切り込んだ遠近法、といったほうが分かりやすいのである。