
よく静物画の制作に使っている少女の像と,アトリエに咲いている鉢植えのポインセチアなどを組み合わせてF10号のキャンバスに仕事をしてみた。何度も描いているこの少女像だが、以前から下から見上げた姿がいいと思っていた。余りそういった構図を考えたこともなかったのだが今回は初めてフロアーに座り込んで、うんと低い位置から一枚の静物画を描いたわけである。
映画監督の小津安二郎の撮影で、ローアングルというのは有名である。ほとんど床下から舞台を眺めたような設定で映画の撮影をするのである。配置された人物や小道具などがまるでピックアップされたような感じに浮きだされてくるようである。それに加えて垂直、水平の要素を強調した画面はまさしく映画の巨匠の名に恥じない堂々たる出来である。どの映画だったかは忘れたが台所に酒瓶一本置いてある場面に、その置き方の厳密なのに驚いたことがあった。
静物画の物の置き方もそうありたいものである。低い位置からの少女像の表情を引き立たせるのに花や布、小さな砂糖つぼなどを色彩の取り合わせや画面の流れを考えながら制作を続けたが、置かれた物の部分よりも案外背景の処理が難しかった。こういったところは出来るだけアッサリとさせたいのだが、かえって描き込まないようにと思う分、難しさを感じる。