
バルーの城をF12号のキャンバスを縦型に使って描いてみた。昨年の夏、この城を遠望したところや、大きな松と組み合わせたものなどを何点か描いたのだが、その時に新たに角度の違った場所を探し当てていた。今まで気づかなかった道を大きくうねると城の姿がはっきりと見えてきたのである。
他にも並行して進めていた制作がたくさんあり、個展のために日本の一時帰国もしなければならなかったので、この新しい場所での仕事はお預けになっていたものである。
大きく曲がった道を抜けて遠くの城に至る、聞けば何か寓意でもありそうに思われるが、ただ一枚のキャンバスに描かれた風景画である。カフカの難攻不落の城のようなものではない、画面一つの存在を心がけただけのものである、しかしこの画面一つという意味が私には一生をかけて実現させてゆく仕事になりつつあるような気がしている。