
幸田露伴の小説〔望樹記〕の書き出しは、年をとるとケチになる、である。同じように絵を描いていて、年をとるとヘンクツになる、というわけでもないのだが、最近かなり小さなキャンバスに普通で言えば大きすぎたり、個数が多すぎたりするようなモチーフを組み合わせたような静物画や、見晴らしの利く広大な眺望をおさめたような風景画を描いてみようと思うことが多くなった。
体力的に大きな画面が無理になったということはまだ感じないし、どちらかというと小さなキャンバスのほうが難しいと思うので、どうして小さな画面を試してみようとするのか分からないのだが、それほどヘンクツな考えはしていないつもりである。
そういったところでF0号のキャンバスに梨を二つとワインの杯、これは陶製のものだが、これを組み合わせて、それぞれの動きを強調してみたくて描いた静物画である.背景は小さな画面があまりうるさくなるのをひかえるために黒とグレーの縞模様の布を置いている。この布も気に入ったものである。